iDoRuGiの小説黙示録

オリジナル小説を作成中につき、興味があったら気軽に見て欲しいのである!!

初めに、ご挨拶をしないといけませんね。

ハッハッハッ! 初めまして! 我輩がiDoRuGi(イドゥルギ)だ。

どうぞよろしくお願いしたい。

 

 このブログでは主に小説をアップしたり、

その小説の設定を書いていこうかと考えているのだ。

 

 初心者なので、途中で若干方向性が変わるかもしれないのだが、

大筋は変わらないので気軽に見ていただければ嬉しいですな。

 

 様々な価値観を取り入れて小説を投稿していくので、

皆さまが読んでいただいた感想なども真摯に受け止めて、

糧にしていければと考えております!

 

 最初はとても短くて申し訳ないのですが、

今後、更新をしていって読みやすくしていきたいと考えておりますれば。

 

 何卒ご容赦の程、お願い申し上げたい。

 

なので今一度、宜しくお願い致す。

興味があったら記事へ行くのである

 

idorugi.hatenablog.com

4.豚紛いの噂に黒染めの噂、その真相を書き連ねしは好奇心

ある、研究員の著書。

report‐No.●【夜王(仮称)の存在】前編

私は、知人の頼みによりとある事件の全容の糸口を探ってほしいとお願いされた。
勿論、最初は断った。僕は調査員であって警察でも探偵でもないと。
しかし、彼女が言った一言で興味を持った。
今では彼女に感謝している、
このレポートを記している時は少し興奮している為に後程修正しようと思う。

なぜ、これほどに興奮しているのかと言えば他でもない。
研究員として踏み込めなかったあちら側の事情を間近で知る事ができたからだ。

僕が依頼された事件というのが「多者連続精神及び生命衰退死亡事件」についてだ。

事件が騒がれて調査が続いていた様だが、余りにも進展がなく手掛かりすら掴めなかったことから政府は一時「それらしい事実」で世間に公表し。
案の定、デマだ何だと叩かれ役職の何人かが責任を取り話が有耶無耶になり、
それと同時期に被害者も減りつつあった。
そして、その知人がどうしても拭いきれぬ一つの糸口があると言って持ってきたのがこの事件の裏に隠された唯一つの手掛かり。

 

裏道へ続く大通りの監視カメラの映像

 

一見、
大勢の人が行き来しているだけで何もおかしなものは映っていない平和な一コマ。

僕も指摘されるまで何も不思議に思わなかった、
訳2~3時間の映像を早送りで見続ける。
何度も見た、コマ送りも通常再生も見れば見る程普通の映像でしかない。
何日かかけて見たが結局は違和感に気づけなかったので、恥を承知で知人に聞いた。
そしたら、彼女はこう答えた。

 

「それは、そうでしょうね。恐らく何百何万の人に見せたところで何も気づかないわ
私が、気付いたのだって恐らく偶然でしか無いのだもの」

「ここ、この時間。私がいつも帰宅の時に帰る道よ」

 

「あぁ、ここに映っているのは君か」

 

「そう、それでこれを見て」

そう言って、彼女は小さいが詳細が記載されている地図を見せてきた。

「ここに映ってるのがこの道ね、ここにカメラがあるわ。ここから私はいつもこの裏道を通ってこの辺の家に帰るのよ」

 

「ふむ、確かにこのまま大通り沿いに帰ると結構なロスになるね、大凡プラス40分といったところかこれなら、僕も裏道でも近道の方がいいなぁ」

 

「そうでしょ。でもこの日の私はどこにも用事が無いのに遠回りをしている」

 

「確かに、不可解ではあるが……。たまには歩きたい気分になるなんてことも」

 

「ないわ。常に捜査だ調書だ何だと歩き回ってるのよ? 文献に齧り付き憶測に思いをはせる誰かさんとは違ってね」

 

「なんと、辛辣な……まぁ、確かに時間は有限だから皆時間は大事にしているだろうけど……」

その瞬間、僕の頭の中の霞が晴れた様な感覚に驚く。
頭の中にあったフィルターが一枚取り除かれたかのような感覚。

 

「感じた様ね」

 

彼女が誇らしげにこちらを見つつ安堵しているのが見て取れる。

 

そして僕はもう一度その映像に目を向ける。

――頭に電撃が走る。

この裏道は裏道とは言え近くの家の人からすれば主要な大通りより使われる、
道も整備され街灯もある。そして何より人通りがそこそこ多い道だ。
それこそ2~3時間もの間カメラを映し続けたのなら少なくとも数十人前後はここを通るはずだ。

「いない、誰もいない。被害者がこの道に入ってから他にこの道に入っていく人が一人も……いない。まるでそこに道なんてない何の様に自然と通り過ぎる……、そんな馬鹿な。そしてこんな異様な光景に最初に見ても疑問を抱かなかった自分、明らかにおかしい」

 

「そう、一度認識すると途てもおかしい状況の映像。同じ時間んでその後取ったカメラは数人から数十人の行き来があった、唯一被害者が入ったこの日だけおかしな現象が起きている。そしてそれに誰も疑問を抱かない、疑問を抱かなければ誰も調べようとはしない。調査資料として取り上げてもらえない、唯一の綻びも影に消える。その前に私以外の人間に気づいてもらえれば捜査は続けられる。私は、真実が知りたいだけ、犠牲になった被害者達の気持ちを汲み取ってあげたい。誰にも知られずにいるのはつらいだろうから……」

そう語る彼女の面持ちには深い悲しみの色が浮かんでいた。
「あなたが気付かなければもう諦めていた所だけど、気付いてくれたみたいだし……。何より今のあなた……すっごくワクワクしてるし」

言われて気付いた。
今の僕はとてもワクワクしている、
様々な文献に出てきたアレが今まさに自分自身の身に起きた。
実際に体験したのだ、
これで怖気づくようでは研究員など辞めてしまえと思える程に鼓動が早く高鳴っている。


僕は彼女に任せてほしい旨を伝え一人黙々と調べ始めた。

世界の一部地域や限られた場所には、
世界――つまりは地球にとって大事な部分が存在しているという説がある。
ある種の人は神々に纏わる神聖な土地である故に決められた時期か人のみが踏み入れられるとか、一切の立ち入りを禁止していたりとそういった場所を神域と称し崇め奉ることもある。将又、別の種の人たちからすれば立ち入れば忽ち不運・厄災に見舞われる為に自己責任で立入りを制限していたり、厄災の影響が近隣に出るとされるところではそれこそ禁促地とされていることもある。

しかしながら、総じてそういった物には長い歴史が関係されていたり、遥か昔の事象が元になっていたりで長期間の管理の末の結果であることが多い。
今回のこの事件の裏道に関しては何の変哲もない道でしかない、嘗て古には何かあったにせよそれならこんな不定期なタイミングで起きる事なんて途ても稀だ。
この地の過去の記録を漁ってもそれらしいものは出てこなかった。
道になる前は田んぼが広大に広がるだけ。
この地で小競り合いがあったのは確かだがいずれも本件とは関係が希薄すぎると判断する。

色々な過去の文献と僕の持ち得る知識を動員して一つの可能性へと行きついた。
恐らく、僕以外の人ではこの回答に行き着いた場合
己の馬鹿さ加減に笑いながら冷静になってまた一から考え直すことだろう。
しかし、僕は違う。
僕の打ち出した結果は例え僕以外の総てが否定しても僕だけは信じてあげなければならない。
どこからどのような考え方であっても到達せし答えは一つだから。
不可能は可能ではないこと。
しかし、この世の真理にでも触れた者でもなければその判断は己で下してはいけない。

不可能の先に可能にする手口があった場合、不可能と決め道をそれた瞬間にその者の追い求める真実には到達できなくなるからだ。
不可能を視野に入れ考えるのだから不可能な結果に近づくのも当たり前。
自分にないものを持った相手の関わった事象ならそれを想像するのもまた不可能の一つ。
憶測や予想・検証や創造等は無いものを組み立て考える事端からできないと判断すればそこから先には進めない。
だからこそ、先にも言った様に僕は僕の導き出した可能性に不可能は突きつけない。
導き出した可能性に多少の矛盾があったとしてもそれはその矛盾を貫くだけの知識、力が無かった自分の可能性を意味する。
【不可能】なのではなく、今一つ自分に答えにたどり着く何かが足りなかった。
ならばその足りない何かを見つけるまで。求めることで手繰り寄せる。
だから、僕はこの仮説を提唱する。

 

【非物理的空間分離概念技能:通称人払い】

 

様々な伝承や伝説に登場する、
古くは人より優れた存在である山に棲む龍や森に棲む妖精が行使できたとされている。
自分の世界(領地)等から外界を隔絶し、安易に攻め込まれたり、
そもそもの侵入を防いだりする為に用いられていた。
龍であればその巣の中に希少な鉱石や宝石を溜め込み果ては龍そのものの皮や爪牙、
鮮血から竜骨に生き胆と竜玉まで人間にとって薬の材料になるとされたり装飾品に家に飾る置物まであらゆるものに利用価値があるとされ、最終的にはその存在を殺すことに意味を見出すこともあったという。
高い知性のある龍は人の言う神に最も近しい存在であり、
争いを好まなかったとされる。
故に、人の立ち入らぬ巨峰に住処を持ったり程深い谷に棲んだりと人との生活圏が異なっていたが欲の際限のないものは手に入らぬものを欲しその対価と名誉により人が動き龍の領域に進行する、そのため龍は人々に認知できない空間でその住処を覆い人々を遠ざけたと言う。

妖精であれば、森に棲む自然の管理者であるとされ、
森の中の生態系からその秩序を保つため個々に固有の姿をしている。
掌に乗る少女の様な見た目でその実性別的特徴は無くの羽の生えた姿や光の集合体であったり、そしてその殆どが一つの自然に複数の妖精で生きており、自然の恵みや自然界にあるエネルギーで生きている。
その姿が美しく綺麗で愛らしい為に愛玩用にと捕らえられたり、
これもまた霊薬の素材として扱われたり自然を維持するチカラを手に入れるべく住処である森に立ち入ろうとする。
そうして立ち入った者は行きがけの駄賃と称して悪戯に動植物を摘み持ち帰り、図らずともその調和を乱してしまい妖精の怒りを買う。
そのため森の奥深く妖精の住処に触れないように迷わせ来た道を帰らせる様に空間を歪めるようにし、近づく者には悪戯をするようになったと言う。

 

そして、長い研鑽と修行を重ねることによりそれは人にもできたという記述もある。

それが隠者と聖者。
隠者は俗世を捨てて自然に隠れて生きる者、
その姿を隠すために人が寄り付かない場所を探す必要があった。
しかし、そんな優れた場所があれば元より人より優れた龍や妖精がわざわざ術を掛ける事もないわけだ。
故にその隠者も住まいを転々としながらその方法を導き出したと言われている、
様々な伝承の中には龍に学んだ者や妖精と恋した者等色んな話が残っている。
聖者、については人が言う神(仏)たる存在からお言葉を賜るにつき、
有象無象が散らばっていては崇高な御方が誰の何が願いなのか解らないだろうと考え、御方がききやすいよう雑音を避け一対一でやり取りすべく神より受けた恩恵だとか信仰にあたり身に着けたとか様々な伝承が残っている。

 

これらは自然より見出したものでは無い為に次期時間制限の総てを担い手の意志により
行使できる。

 

こういった超常的能力が働いてるとしたら、まずその証拠を掴むことは不可能だろう。

 

そして、この仮説を元に事件が起こった地域で未だ同一被害者が出ていない裏道をリストアップしていく。

恐らくこういった技能は何らかを消費して行使していると考えられる。
その場合は元から人が多い所で使うよりも、
最初から人通りが少ない方が行使が楽になるか、
少なくとも何らかの条件がある場合そのクリアが楽になるのではないかと推測する。

その考察を元に現場にも何度か赴いてみた。
1mも無い所、大凡1mの所、1m以上の所特筆すべき点はなさそうに思えた、しかし。
細かな引っ掛かりが僕の目に留まる。
裏道の端から端までの間でどこか一つか二つの街灯が内側から破裂してる事、
老朽化にしては思い切り弾けているのは人為的な意図を感じられる。

この後も様々な考察を繰り返し時間をかけて調べていった。
最初にも書いたが細かいところは後程書き直すとしよう、僕は筆不精だからね。

研究中のメモが膨大すぎて書ききれないや……。

 

 ――約三か月の奮闘の末、僕は真相の一部に近づくことができた。

被害者が見つかった事件現場、被害者の精神の状態、亡くなられた被害者の状態。
更には、世間で最近出回っている夜間の奇妙な出来事等どんな細かい情報もすべて広い一つのピースに当てはめていく。奇妙な出来事の例を挙げるとすれば、

・夜中にコンビニにケーキを買いに行った帰り、
背後から粘っこい音と生暖かい吐息の様なもを首筋に感じ振り返ると何もいなかった

・夜中から明け方にかけて顔面を涙と鼻水でぐちゃぐちゃにして笑いを堪えながら歩いている人を見かけた様な気がした、悪夢だった

・夜にどこかから豚の悲鳴の様な声が聞こえて途ても怖くなった、悪夢を見てただけかもしれない

等の証言が得られた。
一つ目の証言者は皆女性であり、二つ目は意外と多くの人が記憶していた。
最初は皆、夢の話だと語っていた。
三つ目はかなり稀で沢山聞きまわって答えたのは3人だけ、
同じ日の同じ時間に起きていた人達だ、これらも皆悪夢だと語っていた。

仮に夢であっても同時期、同時刻に似た様な悪夢を見ることの方が珍しい。
何かしらの精神作用があるとみてしかるべきだ。
上記の噂は狂気乱豚(きょうきらんブー)としてキモがられているようだ。

 

そして、この時私はまた別の奇妙な出来事の情報を得ていた。
先程までの不可解なものと異なり、こちらは大分面白い。

・外のちょっと高いとこで作業してたら日が暮れちまって足元がお留守になってな。
焦ったのがまずかった、脚立がグラついてな。やっちまった!と思ったら真っ黒なフードで顔を隠した見るからに怪しい奴が長げぇ杖で脚立を支えててな。
慌てて脚立から降りてよぉ、すまねぇ助かったって振り返ったらもうなんも居ねぇのよ。ありゃ神隠しのたぐいだなぁ。

 

・夜道でさぁ、スマホ見ながら歩いてたらいきなり持ってたスマホが何かに弾かれて……。なんだと思って前見たら真っ黒なフードの奴が杖を振った状態だったんだよ、確かに歩きスマホは禁止されてっから悪りぃとは思ったけど……。
そこまでする必要はねぇだろって思ってさぁ。「何しやがる」って叫んだら、
そいつがいきなりその杖で俺の事小突いてきて突然だったから後ろによろけちまって。
頭にきて立ち上がって前見た瞬間に、人ひとり分先にさぁ上から音もなく鉄骨片がスゲー音して落ちてきて、俺がアワアワしてたら向かいに居たフードの奴が杖を片手に鉄骨片を歩きながら俺の前まで来て。スマホを差し出してきてよぉ、俺がスマホを確認して俺のだって思って前を向いたらもう誰もいなかったんだよ。そのあとは騒ぎを聞きつけた人たちが沢山来て対応してたけどその中にそれっぽい人、いなかったんだ。お礼だけでも言えたらよかったのになぁ。

 

・ウチ等女子会した帰りでさ……。
女数人で歩いてたら数人の男グループ見たいなのに絡まれてはぁ、
サイテーついてないわぁって思ってたわけ。
最初は穏便に断ってたんだけど、なかなかしぶとくて結構ヤバめだったから周りの人に助けて―って言ったの。
周りもそこそこの人が居て近くの何人かは無視して行ったんだけど、一人だけ大学生っぽいシャキっとした人が間に入ろうとしたの。
そして、声をかけるより前にいきなり絡んでたグループの男の中で偉そうなやつが仲裁学生をボコボコにし始めたの。一人二人増えてって、「あぁ~あお前らが素直についてこないから尊い犠牲が出ちまったよぉ」っていったの。そしてウチの友達の髪引っ張って「来いよ、一緒に来いよ。来るよなぁ? 」って脅迫してて……、
マジで怖くなって何もできなくて周囲の人も足早に去って逃げるしで。
そんな状況でも仲裁学生君がまだ「それくらいにしとけ、じゃないとお前たちも奴に狙われるぞ」ってグループ連中を睨んでいたの。奴って誰?って私も思った。
警察かなとか期待しそうになって、グループの連中が周りを見渡して誰も来ないのを確認してから笑い出して更に髪を引き上げたの。
友達が苦しそうに呻いて、それを見てウチが耐えられなくって、
無理だとわかってても仲裁学生君に助けてって言っちゃたの、
そしたら彼が「俺は監視されてるっぽいからな、来るさ。絶対……ほら、奴も……大分御怒りみたいだぜ」って言って見上げてたの。グループの連中が「あぁん?」ってつられて上を向くよりも前に、
そこには髪を掴まれていたはずのウチの友達を抱える黒いローブの怪しいのが居たの。
強張るウチと同じ状態の女の子たちに抱えてた友達を預けて、
仲裁学生君の元に歩いて行って彼を見下ろしていたの、
「ぁんだよ?こっちは手ぇ出してねぇよ。全部あんたに押し付けてやるためになぁ……」って言って肩とか首をポキポキしながら去っていったのよ。それを見ていたグループ連中が後を追おうとした時、
キーンって小気味良い音が響いて皆、そっちを見たの。
黒いローブが杖を地面につけた音だった。そこからはもうすごかったわ。
グループ連中が偉そうなのと一斉に黒いローブに襲い掛かったんだけどコテンパンに倒されて気を失って、私も唖然としていた。
気が付いたら仲裁学生君が巡回の警察を連れてきて後処理をしてたの。
後から聞いたら、仲裁学生君も前までヤンチャしてて黒いローブにギッタンギッタンにされたらしいの。でも彼が言ってたのはどんなにギッタンギッタンにされてもみんな軽傷以下なんだって。
めったに現れないけど助けが必要な人の前には人知れず現れるかもしれないって言ってた。ちなみに仲裁学生君は彼女持ちだって、残念。

 

と、取り合えず聞いたまんままとめてみたが。
一つ目はとっても些細なもの。
二つ目は結構大きなニュースになったが彼の話は気が動転しておかしな話をしてしまったと言う扱いになってしまった。しかし、
三つ目のそれが大きく取り上げられたために複数の人がその黒い怪しい奴を目撃している為に法螺話では扱いきれなくなった。
その後も、似通った出来事が続きこちらも多少噂されるようになった。
この黒くて怪しい奴だが、世間では評価が二分されているらしい。
呼び方も人それぞれで様々なようだ。
夜のみに目撃証言があったため、ここでは仮に夜の王【夜王】と称することにする。

そして私はその後も調査を進めていった。
追い求める答えは常に日常に紛れている、そのチャンスを僕は見逃さなかった。

 

その日はいつも通り聞き込みを終えて外を歩いていた時、だった。

 

ンンンンンンギャァアァァ……

 

大凡日常では聞く事の無い異音が耳に留まる。
周囲の人を見回しても皆、顔色一つ変えずに過ごしている。
僕は、近くにいたおじさんにそれとなく聞いてみたが、答えはNoだ。

「何も聞こえないが?聞こえてくるのは人の会話の雑音と店から漏れ出るBGMだけ、物騒な世の中になっても目に見える世界は何らかわらんねぇ」

それを聞き僕は確信した。

今のは恐らく、皆には聞こえてはいない。
術中の中にいる彼らにはフィルターが作用しているのだろう。

僕は既に知人である彼女のおかげて術中の外にある。
つまり、今の僕ならその場所を知る事ができると言うこと。

真実を求めるには危険が伴う。
しかし、その危険が高ければ高いほどその真実には大きな意味が生まれ価値が付く。

故に僕は顧みない。
動かず後悔するよりも、行動の果てに失敗した方がまだましだ。
例えそれが自身の死であっても。
導き出した答えが手元にあっても、
その追い求める答えを逃し腐らせてしまった事実の方が僕にとっては最もつらい。
好奇心猫を殺すと言うけれども、
好奇心を失った研究者は研究者のままではいられない。
どうせ死ぬなら僕は研究者として、研究者のまま死にたい。
追い求めた先に何があったとしても……。

僕は、何時に無く集中した。
人ごみの雑音も何も聞こえなくなるぐらいに。異音のした方へと足を向ける。
人の流れを見て、知る。歪な部分を探るように……
駅から出た人が大通りへ抜ける。
大通りを行く人たちが四方へと別れていく……
老若男女様々な人たちが小道に逸れて行く、若い男二人組は右の小道に、
仲の良さげなご夫婦は左の小道に……

ふと、僕の視線は一匹の猫に向けられる。

道の傍らで裏道の前で訝し気に見つめている。

まるで入るなと言われたかの様に……
僕はその裏道に近づいてゆく。

 

ゾクリと悪寒が背筋を這った、恐らくこれが人を遠ざけていた技能の正体だろう。

思わず避けたくなるような不快感、
吐きたくなるような気分を堪えて僕はその裏道の奥へと足を踏み入れた。
一歩が途轍もなく重く険しい。しかし、片足が道に入り靴底が地面と接触した瞬間に今までの不快が嘘の様に消え去った。
僕は奴らが居るであろうそちら側に足を踏み入れたのだ。
もう後戻りはできない、する気もない。

僕はただただ前へと進んでいく、おかしい。
さっきの大通りの脇道なのに明らかに光が足りない。
先程までの極度の集中力は既に切れている、僅かに気を張り詰めているのだがそれにしても何の音もなく不気味なくらい静かだ。

空間の把握も難しくは無いのに何故かどれ程歩き、どれだけ経ったか見当もつかない。
通常より僅かに疲労が激しい。
すると奥から声が聞こえてくる、野太く篭った声だった。
何かに語り掛けているようだった。

そして僕はついに真実を手繰り寄せることができたと実感した。

2mか3mか解らないけれどそれくらい大きく歪な大漢とキラッキラに輝くフルフェイスを被った全身が黒い服の男。
頭のフルフェイスは恐らく南瓜なのだろうか?
そんなことを思いながら眺めていると南瓜頭の後ろで黒い布が被さった女性を見つけた。
恐らく今回の犠牲者なのだろう、状況を鑑みる。
自分の持っている情報とすり合わせる。

南瓜頭は恐らく件の夜王であると推察される。
あの大漢は大凡人間を辞め掛けているが未だ知性があるようだ。
あの大漢が、かの事件の根源なのだろうか……
だとすれば仮に乱豚(らんブー)とでも呼ぼうか。

自身の思考に囚われているうちに双方の途方もない激戦が繰り広げられていた。

拳を振り翳す乱豚とステッキを巧みに使う夜王、怒涛の剛撃に防戦一方の夜王。

戦闘知識皆無な僕からすればどちらが有利なのかどうかすらわからない。

白熱した攻防を目の当たりにし、唯々状況を見守る事しかできない。
被害者の女性を助け出せるスペックが無いのは申し訳ないが理解してほしい。

今起きている詳細をメモに書き写そうと息を殺しペンを取ろうとしたその時。

 

とんでもない一撃に夜王のステッキが弾かれる!

 

ギャィンッという金属音と共に物陰に隠れる僕の前に突き刺さる。
その地面はコンクリートで舗装されていると言うのに……。
摩擦も抵抗も感じさせずにまるで豆腐に刺さる箸の様に滑らかに深々と突き立っている。

僕はペンを手にすることも忘れその先の両者の行く末に見入っていた。

人体構造上不可能なほどの形状変化をする乱豚、
どういった原理なのか秘めたる好奇心が探求的衝動を刺激する。
しかし、ここは生死に関わるところ。
成すすべなく死に堪えるならば未だしも活路があるならばむざむざとその生を捨てる気はない。
激しい攻防が更にその制度を激しくする。
最早僕にはその攻撃の動作が見えない程に。
間違っても巻き込まれる事の無いように、唯その光景に息を呑む。
この僕では、
恐らく掠っただけで接触部分が飛び散ってしまうだろう攻撃を繰り返す乱豚。
そして、避ける動きですら見失ってしまう夜王。

僕が見つかれば夜王にとっての負担になりかねない。
あの夜王が強者であることは知っているつもりだが、
どれ程のポテンシャルを秘めていたとしても邪魔なものは少ないに越したことはない。
今は、自分が見つかることなく多くの情報を持ち帰ることが自分にできる唯一の使命なのだ。
知人である彼女の頼みではあったけれど、
それ以上に今の自分がその使命を全うしたいと思っているのだから。

最小限の動きで躱す夜王に対し乱豚は怒涛の剛撃を辞め素早く鋭い手数の攻撃に変わっていった。

どっちにしろ、僕に掠れば即ミンチだ。
想像するだけで体中が痛む。

 

そんな想像をしながら、僕はどこか楽観していた。

双方の戦闘が物理であったためにどこか現実味を覚えていたのだ。
薄暗い世界でそれは唐突に現実味を失った。

乱豚の剛腕がブクブクと膨れやがて収束する。

轟轟と音を立てていた一撃が夜王の眼前に迫る前で風切り音へと変わる。
拳が開き、鋭利な抜き手が夜王に迫る。
今までの鈍重な一撃必殺が一変し、鋭敏かつ最小限の動きで急所を貫かんとする攻撃になる。
巨体だった乱豚がその姿に変化が訪れる。
攻撃を繰り返すたびに腕は長く細く膨れ上がっていた巨躯はバケモノじみた大きさから、少々大きな一般男性サイズへと縮小する。

そして僕は驚愕した。……いや、それを通り越して、絶句した。

乱豚の背面、僕の方から見た乱豚の背中に幾つもの小さな顔がポコポコと浮かび上がったのだ。
その顔は、くっきりしたものでは無く丸の膨らみに三つの窪みが開いただけのもの、
小さな窪み二つと大きな窪み一つで構成されたそれの大きな窪みがパクパクしてなければ唯の凹凸にしか思わなかっただろう。
しかし、その顔の一つ一つがころころと表情が変わっているシミュラクラ現象も蠢いてしまえば最早否定できない。
無限に変わる表情とは裏腹に浮かび上がるその顔の目にあたる窪みには何の感情もない。
じっとこちらを見つめる無数の小顔達。
なんでも受け入れる心構えをしていた僕でも震えが止まらなくなったと言えばどれ程のものか想像がつくだろう。
なんて言ってみたが、想像なんてできないだろう。
人間にとって恐怖は最も差異の大きい感情であり、精神力では抑えられない感情の一つだからだ。


恐怖心を失えば命を落とすともいわれているのだから。
まぁ、そんなことはどうでもいい。
それくらい、怖かったのだと理解してさえもらえれば、
この記述を残した甲斐があったというものだ。

そんな恐怖に見つめられながら僕は目を逸らすように夜王へと目を向けた。
恐怖により思考が纏まっていないままに見た夜王の姿だったが、不意に夜王の揺らめく瞳と目が合った気がした。

 

やってしまった、僕は別な意味で顔面蒼白してしまった。
あれほど息を殺して潜んでいたのに、恐怖と興奮の余り頭を僅かに出しすぎた。
そのせいで夜王の注意が一瞬でも僕に向いてしまったのだ……
どれだけ戦いに不慣れな僕でもこれだけはわかる、
あの乱豚の一撃から今、このタイミングで目を離してしまうのは致命的だろう。
目を瞑ることも逸らすこともできず、その瞬間を無念な面持ちで見つめていた。

 

夜王が動かない。

 

今まで如何なる攻撃でも最小限の構えはしていたのに、
構えを取る事すらせず乱豚を見据える。
やがて乱豚の一撃が迫る瞬間、夜王は乱豚から目を離し天にどよめく雲を仰いだ。

 

乱豚の鋭敏なる一撃が夜王の胸を貫いた!

 

その刹那、夜王の姿が弾け飛んだ……

 

黒い靄の様な破片が飛び散る。

雲が切れその間から、眩しいくらいの月明かりが差し込む。
パラパラと舞い落ちる夜王の残骸を淡く照らす。

 

乱豚が空に舞う破片と、鋭く尖った手先に着いた夜王の破片を振り払った。

「ンフフッお待たせぇ、待たぁあ?」

 

そう問いかけながら、牛歩の歩みで布に包まる女性に近づいてゆく。

乱豚の身体がまたしてもブクブクボコボコと脈動を繰り返し、女性へと近付いていく。

 

「ンフフフフファファフアァアアハハハハ、安心したまえ。先の一撃、確りと手ごたえがあった。そちらは見えていなかっただろうが、こちらからは確とあの野菜が弾けるのが見えたのだ、もう私を邪魔する者はいまい」

かの声の恐怖に震える足に無言の激励をし、
再び気を失った女性の元へと駆け出そうとする。

 

僕の気持ち的には駆け出していたんだ。

 

けど、結果だけ見れば、僕の足は一歩たりとも動いてなかったけれどね。

 

動かない足を無視し、乱豚を見る。またしても背面の虚顔と目が合う。
恐怖に感覚が鈍り冷静になる、
あの顔の目に映ってしまった以上気付かれているのではなかろうか?

そんな、今更な疑問を余所に目の前にスッと黒い影が差しだされ、
未だ動かぬ足に入った力を霧散させる。

地に刺さるステッキを抜き放ち、僕の行く手をその手で遮る。

思考の波に追い付けず視界がグワついた。

 

そこには、無傷の夜王が立っていた。

移動の音も、動きの気配も何も感じさせないままに猛烈な存在感を解放した。

激しい炎に包まれるかの様な感覚でありながら、水中の様な浮遊感しか感じられない。

気が付けば夜王の手元には外套に包まれた気を失った女性が横たわっていた。
その女性を僕に渡し夜王は音もなく進み出る。

 

突如、反応が消えた女性に違和感を感じたのか乱豚が目の前の外套をバサリと引っぺがす。

そこには何もいなかった、地に着くより先に投げられた外套が月光に消える。

木漏れ日程度の月光が、今ではもう辺りを照らしている。

 

夜王が乱豚の背後に立ったと同時に乱豚が振り向き激昂する。

 

何者なのだぁ‼‼‼‼ バケモノめぇっ!確実に心臓を貫いた感覚もあったのだ。姿なく移動し、気配無くその女を移動させる。新人類とて限度というものがあるだろう。最早そちらのそれは超人の範疇を超えているではないかぁ。黙して語らぬ、野菜にんギョうがぁああああっ!! なぜ今になってこらの邪魔をする、何故かつて望んだ時に助けてはくれなかった。そちらの行いは唯単なる偽善でしかないのだぞ?なぜこちらなのだ、こちらの他にも同罪の者どもはそこいらニオるではないかぁ……なのに、なぜ……なのだ……

 

「「……、……」」

 

行き場のない思いを叫ぶ乱豚と終始無言の夜王の沈黙が重なり合う。

 

ndぇjrjfkヴsgふぉlごgぉぉぉおおおおおお!

 

憤怒に染まる乱豚が言葉にならない叫びと共に、
嘗て無いほどの一撃を両腕の連撃を放った。


ゆっくりとそして滑らかにステッキを振り上げて……

無駄のない所作にて振り上げた腕を……

……振り下ろす!

 

……ッス……パッ。

 

銀色のステッキが二筋の銀閃を空に描く……

 

「……っが……あぁ……」

 

ドズゥンと重々しい音と共に乱豚の肩より先の両腕が地に落ちる。
未だ地表で蠢く肉塊は不気味な瘴気の様なものを放ち干乾びていく。

空を漂う瘴気が乱豚に纏わりつき、背面の虚顔の口へと吸い込まれる。


だ?なンナんだ?からが……、イタみが……。おが……


乱豚の野太く篭った声に、
聴きなれない雑音が混ざって殊更聞きづらさに拍車がかかる。


そこに、聞き覚えの無い音が言葉になって頭に響く。

(今更だな、愚かなことだ。自身の置かれている状況に何一つ気付かなんざとは……)


周囲を一瞥し音の出所を探す。
しかし、この音は頭の中で反響している様で周囲からは聞こえなかった。

 

「そちラ、喋ノデスか?……いシャベるというヨリ……語ケル……か?ツマリ念話か?」

 

(フンッ、そんなことは如何でもいい。今の其方の状況を知るがよい、愚か者めが)

 

目の前で繰り広げられる噛み合わぬ会話と理解に苦しむ頭に響く声

 

確かに、あのフルフェイスでは通常では喋れないだろうなどと現実逃避を挟みつつその成り行きを影から見守る。

そんな中、ボコボコと繰り返していた脈動がビクビクっと痙攣する。すると、
背面にあった虚顔が体中に無数に生まれては消え、消えては浮かび上がる……。

 

声も無くもがき苦しむ乱豚の頭と首が胴へと埋まる、
いや正確には胴体が肥大している感じか。

下半身はそのままに、
歪みに歪んだその身は既に肉塊に足が生えた顔だらけの達磨だった。

 

僕はこの事件がここまで到達するとは思わなかった、
まさかあの一歩が本当にこんなところに繋がっていたとは……

 

僕は上っ面な覚悟を捨て、真なる覚悟を心に誓った。
恐らくこれはまだ序の口だろう、これより先は想像だにしない世界。

僕の様な非力な凡夫では瞬殺されるだろう、
ならば悔いの残らぬ振る舞いをし続けるべきだ。

そうして僕は気を失った女性を離れた所に寝かし、ペンを力強く握りしめた。
未だ意志を持つ肉達磨に成り果てた狂気乱豚と掴み処のない南瓜頭の夜王の元に歩み寄っていくのであった。

先は動かぬ両足も、今では跳ねる様に前へと進む。

願わくば、この書き連ねてるメモを完璧なるレポートに落とし込み僕の見た全てを後の誰かに知らせたい。知人で依頼人の彼女は勿論、
それ以外の志を同じくする同志諸君へと……

 

 

 

なんて当時は思っていたよ。
勿論このレポートがここにある以上僕は生き残ったよ。
まぁ、無事かどうかはわからないけどね。

3.夜に黒く、月影に瞬く

彼女は感じた温もりを探すも、混沌に蝕まれたままでは焦点すら定まらない。
感覚だけが頼りだった彼女の意識が唐突に覚醒する。

 

(其方のコトバ、僭越ながら此方が確と受け止めた。然らば、万事任せるがよい)

 

今までの、汚らしい話し方と異なる優しく堂々たる強い声。

耳からではなく深層心理、心に語り掛けてくる音。
彼女の虚ろな視界が、僅かに蘇った意識を持って眼前に据えられる。

 

そこには、眼窩の奥から淡い灯火を揺らめかし、
不思議な煌めきを纏う南瓜が外套を羽織り、ゆらゆらりと歩み寄りつつあった。

暗闇の中で黒き外套に身を包み、
それでいて月の光を纏うかの様にくっきりとその姿が目に映える。

通常ならば黒く塗り潰され、暗闇と黒き外套の境界すら曖昧で、
到底見分け等つかないはずの不可解な光景。

大凡、人ではない異様な見た目に普段なら並々ならぬ警戒を示しただろう。しかし、
その見た目は正にファンタジーの住人そのままであった。

南瓜に目と口であろう窪みがあり、
彼の有名な【ジャック・オー・ランタン】を連想させる。

唯一異なるとすれば、植物ではなさそうな白とも黒ともつかない輝きを持つ銀の煌きを放つ南瓜の様な頭部であろう。

その全貌は紳士の如く細やかであり、尚且つ強大な存在感を放ちこちらに歩みよる。

 

ンンンンンンギャァァァァアァアアア…… 

何なのだね? こちらの邪魔をする愚劣極まる矮小なる者はぁ!!
どうやって、ここに入ってこれたのかねぇ。
ふざけた仮面なんぞ張り付けおってからにぃ!?」

 

吹き飛び遠くから戻りつつ喚き散らす漢に対して一瞥もせず、
南瓜面の紳士が手を振ると、体の硬直が嘘の様に消え失せた。

まるで見えない何かが弾け飛んだかの様に。

 

身体の自由を得られた彼女だったが、心神以上にその体も瀕していた。
アドレナリンのせいなのか。
将又、軽い錯乱による影響なのか、力が入らないだけで激痛はなく。
その場で座り込んでしまう。

 

(其方はそこで暫し待ちなさい。すぐに済ませる故)

 

南瓜紳士がそう語り掛けると同時に羽織っていた外套を彼女にかけた。

外套の下にはビシッと決めたスーツにも燕尾服にも似つかぬキッチリとした服を着て、その手には白い手袋を嵌めていた。
一片の肌の露出が無い為か、一層人間味が感じられない。

ギャイギャイと騒ぐ漢を尻目に南瓜紳士が佇まいを整えた。
漢を正眼に抑え、油断なく向き合う。

 

「ンフフ…… だんまりですか? そちらが何方かは知りませんが、
そんなことは粗末なこと。
こちらの縛手を打ち破ったことでそちらも異常者であるということは確実、
ですが不意打ちにはしてやられましたが。
もう、同じ手はくいませんよ、えぇ、はい。」

その瞬間漢の雰囲気が変わった。
ぬるぬる纏わりつく様な気配が重くのしかかる様な感覚へと。

 

「…… 一つ聞こう。おぬし、今回が初犯ではないな」

 

「フン? だったら何だというのですか。
こちらは人より数段優れた新人類なのですよ!
下等なゴミどもを無駄にせずに輝かせてやっているのです。
無駄に死ぬならこちらの糧になっていただいた方がこの世のためでしょう」

 

漢がニヤニヤしながら戯言を口にする。
それを静かに聞く南瓜紳士。


「…… 」

 

それに気をよくした漢が更に言葉を重ねようとした瞬間、
周囲の雰囲気が変わったことに漢は気付いた。

 

眼窩の中の淡い揺らめきが左右に強くなる。

暖かな橙色がギュッと濃くなり黒紫へと変わっていく。

纏うオーラも、まったりしたものから鋭く張り詰めたものへと変わってゆく。

 

そんなオーラにビビったのか鬼気迫る表情に球の汗を浮かばせながら不可視の力を伴って漢が駆け出した。

 

「ンファ!! なんのつもりか知りませんがこちら、

そちらと話すことなんてないのですよぉ!!」
言葉と共に漢が拳を振り上げる、南瓜紳士が最小限の動きで後ろに避ける。南瓜紳士が居た場所には二回りほど体が膨れ上がった大漢が拳を下ろしていた。轟音と共に地に亀裂が入り、砕けた破片が四方に飛んで行く。

キーンと甲高い金属音が響く、大漢の拳から亀裂を辿るようにして破片が規則的に南瓜紳士へと飛んでいく。

 

「フンフンフンフン!! どうなされたぁ、屑野菜殿ぉ?

その杖が無ければ歩けないのかね、ムフン」


大漢が破片を飛ばしつつ、更に拳を打ち付ける。
南瓜紳士がいつの間にか手に持っていたステッキで破片を弾きながら
大漢の拳を避けつつ隙を見てはそのステッキで拳に一撃を入れている。
しかし元の膂力が違うためか、
大漢の拳の連撃により南瓜紳士のステッキが後方に弾かれる。

 

ここぞとばかりに拳をひねった大漢の一撃にステッキが手から離れる。

硬質なステッキが鋭い音を響かせ地に刺さる。

大漢越しにそのステッキに視線を向ける南瓜紳士。

 

その行為に対して大漢は憤慨する、
そして大漢の中の心の均衡が崩れだしたのかワーギャー騒ぎ始める。

 

「そちら、舐めているのですかぁ? 

先ほどから一切の攻撃がなく牽制のみで終いにはこちらから目を離すとはぁ‼
ぐのぉうぅぅ、なんなんだぁああああああぁぁ
どいつもこいつも、こちらを馬鹿にして。真剣に相手の為人を見ようとしなぁい、
母も父も誰一人こちらを見ない。

 自分たちの望んだ能力が無いと分かれば直ぐに用無しとして放る。
あれらが見ていたのはこちらではない、
あれらにとって有用か否かの取捨選択でしかなかったのだ……
そしてこちらはお眼鏡に敵うスペックを持ち合わせてなかった。
それでも幼かったこちらは周りの睦まじい家庭を見て家屋の間には
無条件で与えられる愛があると思っていた。

誰もが信じるだるぅお? 無償の愛と言う魔法の言葉があると…… 
だが、そんなものはまやかしだった。」

 

会話というよりも、最早それは独白だった。
嘆き、叫び、語りながらも剛腕を振り回し、地を抉る。
その猛攻は南瓜紳士を瞬きも逃さない。

語り続けてながらもその動きには無駄がない、
語るより前の動きより洗練されている程に。

 

「…… ッ」


南瓜紳士は猛攻を裁きつつも返答は無い。

相槌も無いその反応に常人では聞いているのかすら分らないだろう。
しかし、大漢の独白は更に続く、拳を交えているが故の意志の繋がりか。
いや、恐らく違うだろう。

南瓜紳士は大漢の猛攻を往なし、裁き、受け止める。
どんなに激しい動きでも、その呼吸が乱れる事は無い。

だが、唯一南瓜に刻まれた眼窩の揺らめきは、
大漢の醜悪な姿を不自然な程に一切の瞬きも無く視界に捉えていた。

眼球の無い曖昧な輝きに瞬きの概念が存在するのかは知る由も無いが、
その眼窩の光球には何が映っているのか。
常人では想像もつかない世界が映し出されているのか、
将又何も映さぬ飾りの一つでしかないのか。

唯々、分かる事と言えば未だ声を漏らさぬ切り開かれた歪な口より、
数多くの言葉を含んでいる様な異様な輝きを放ち続けていることだけだ。

そんな、
なまじ話を聞いているのか怪しい南瓜紳士に向かって、
大漢は自らの思いをぶつけんばかりに剛腕を突き入れる。

右からの剛腕がブクブクと膨れやがて収束する。
轟轟と音を立てていた一撃が南瓜紳士の眼前に迫る前で風切り音へと変わる。

拳が開き、鋭利な抜き手が迫りくる。今までの鈍重な一撃必殺をやめ、
鋭敏に最小限の動きで急所を貫かんとする攻撃。

然しもの南瓜紳士とてこれは予想だにしない変化であったのだろうか、
一瞬の逡巡があったため回避に遅れた。

大漢はこれを狙っていたとばかりに歪な口元を更に歪める。
音にするならば「ニチャリ」を超えて「メキョッ」と言った感じだろう。

「ンフフフフンフヌフヌフ……
油断ぶっこいているからそうなるのです、

先ほどまでの不安定なチカラではない。
体内で荒れ狂う、
今までに得た力をこちらはついにモノにしたぁ‼ 

時間稼ぎのお喋りも最早必要ない。後は目障りな屑野菜、
そちらを処分してしまえば、
新たに得たこのチカラで新たな絶望の発露をこの手で
つみとるだけぇえええええ」

収縮したとは言え、常人にとっては今尚巨体な腕で繰り出されるその抜き手は、
大凡弾丸と同等かそれ以上の速さで迫っている。
武器で言えば凹凸の酷いパルチザンの様な腕、
ステッキがあれば幾らかやり様もあっただろうが、一見何も考えていない見た目に反し
狡猾な大漢はステッキと南瓜紳士の間に陣取っていた。
迫りくる一撃を見据え動かぬ南瓜の紳士。その視線が初めて、大漢から離れる。

南瓜紳士が天を仰ぐ。

 

 

外套を被せられた女性はいつの間にか意識を取り戻していた。

外套の中から目をのぞかせれば大漢と南瓜紳士が対面している所だった、
大漢の一撃は彼女には決して見えるものでは無かった。

しかし、南瓜紳士が何もせず立ち尽くし、
瞬き前まで南瓜紳士が居た場所には大漢の鋭利な一撃が降りぬかれていた。
地面は弾けることなく深々と突き刺さり、
引き抜いた腕を満足そうにウットリと見つめる大漢。

醜悪な容姿は何時しか凶悪に見える。女性は若干の震えを隠しながら息を呑む。
真暗だったはずの世界に、いつの間にか天からの月光が大漢の前に降り注ぐ。
まるで悲劇の舞台でも観ているかの様な引き込まれる感覚を覚える。
不意に大漢と目が合う。

 

ンフフッお待たせぇ、待たぁあ?」

 

始めて声をかけられたときの様な悪寒はあったが不思議と絶望は感じなかった。
ただ眠くはないのに瞼が重くなっていく感覚に抗えなくなっている。

大漢の身体がまたしてもブクブクボコボコと脈動しながら近付いてくる。

ンフフフフファファフアァアアハハハハ、安心したまえ。

先の一撃、確りと手ごたえがあった。そちらは見えていなかっただろうが、
こちらからは確とあの野菜が弾けるのが見えたのだ、もう私を邪魔する者はいまい」

大漢の声も遠くに思える程朦朧としつつ、女性は一抹の不安を抱いていた。

しかし、彼女が夢の中に沈む瀬戸際。
彼女の意識しないところで大漢の背後に何かの姿が映りこんだ。
彼女は夢現の中でそれが何だったのか理解し、安堵した。

 

彼女曰く
「夜の中でも黒く佇み、月明かりの下でも眩しく煌めく。その姿は正しく闇夜の主」

彼こそが「Dark Keeper」後の夜の番人と語られる噂の正体、都市伝説の一つ。

彼女の語った証言はここまでだ。

2.秘かに囁かれる噂

当時。一部の内容が公にされず、造られた内容で出回った事件がある。

遺族が語った内容は世間には受け入れられず、奇異の目で見られたようだ。

それもそのはず、幾人かの人間が生身のまま廃人と化したと言う事件だ。
聞いた限り可笑しな事件だと思うのだが、内容はゾッとするものだ。なんせ、
つい先日まで笑っていた人達がなんの兆候もなく、人形の様に呆然となるのだ。
刻々と弱っていき、目を離せば生きているのか死んでいるのか解らなくなるほどに無感情になると言う。

 

何かの事件に巻き込まれたのなら情緒不安定や発狂やらでも可笑しくはないのだが、
皆一様に肉体から自我、精神、心がすっぽりと消えたかの様な人形へと成り果てる。
心臓の鼓動も生前の惰性で行われているかの様に弱まって大抵は死に至る。 

唯一、その事件に巻き込まれたと思われるが、
僅かに正常だった彼女の話が世間に出回ったのだが……。
余りの内容にその熱は長く続かなかった。

 

彼女自身に聞けば答えたそうだが、
世間では世迷言として異常者の扱いを受けたそうだ。
その当時のマイナーなゴシップ記事にだけ都市伝説として、それは掲載されていた。

 

~とある被害者達の記録【都市伝説誕生】OL女性のゴシップ記事~

 残業終わりで夜中に一人で帰宅していた所に不快な視線を感じた。
静かな夜闇にザリザリと遠くから音を殺そうとして消しきれない足音が聞こえてくる。

しかも、気持ちの高ぶりを隠し切れないのか、
「ハァ……フゥ……」等の鼻息が微かに聞こえてくる。

鳥肌を超えて、肌が更に粟立つ。

憎悪を感じ始めていると足音や息使いが近づいてくる、
頭では逃げ出したいのに体が動かなかった。

まるで見えない何かに縛られているかの様に、
力は入るがそれ以上の拘束力で押さえつけられている感覚が体を襲う、
声を上げようと叫んだはずが口に手でも当てられているかの様に声が口内で篭る。

得も言われぬ恐怖がその身を包む。

その瞬間、突如として鈍い破裂音が上方にて響いた。
何かに潰された様に街灯が切れ明かりが消えた。

 

ンフフッフッフッフ、こんな夜道に一人歩きとはアブナイネェ……ギュフフ

 

(いや!? 何、やめて――)

この時、彼女は性的なものを想像して嫌悪していたが……

 

「そんなに喜んでくれるなんてこちらとしても大変やりがいがありますね、はい。
しかし、残念ですねぇ……こんなに美しい瞬間が一度きりしかないなんてねぇ、
この世はとても残酷ですね。貴女もそう思うでしょう?」

 

ゾワリと肌を舐める感覚が体を貫く。
振り向くことすらできない中で、
左に右に目を向けるとそこにはニタリと笑った顔があった。
そんな顔を張り付けた様な男がこちらを舐めまわすように見つめていた。

最初に感じていた嫌悪が恐怖に変わり、
思考が追い付かず遂にはパニックになり絶望感に苛まれる。

 

「おや? もしかして、こちらの意図を履き違えておりましたかねぇ……
こちらは別に貴女の身体に興味はないのですよ、はい。
憎悪、嫌悪、拒絶、恐怖、恥辱、狂気、そして絶望。

この感情の頂点での極る瞬間の煌きがこちらは好きなのですよぉ」

 

この言葉が彼女のパニックに拍車をかける。

 

「しかしですね、先程も語りましたが残念なことに絶望を迎えた後、
人はもう壊れてしまうだけなのですよねぇ。ですから、貴女にはそう簡単に壊れないで少しでも長く感情の発露を見せてほしいですねぇ、はい」

 

「ひ……い、やぁ……」

 

「ンフフフ。あまりの衝撃に声にもならないようですねぇ。あぁー。
因みにですねぇ。こちら対象の行動を阻害することができましてね、
抵抗できないはずです。実際、動けないでしょう?」

 

「!!……くっ……」

 

「おやおや、何を言っているんだという顔ですね? わかります、わかります……
超常現象、特殊能力、そんなものはこの世に無いと仰いたいのでしょう。 
愚かですねぇ、ですがそれも仕方ありません。なんせ、
この世は平和で塗りつぶされているのですから。
人は、自身の目で見た者しか信じられない、
そのくせに自身で見た都合の悪い現実からは目を逸らす。なんとも愚かな仕様ですね。
人間が一生で知る事ができる内容なんて、この世界の理を100とすれば
僅か1にも満たないと言うのに…… なぜ、否定できるのか。
こちらからすれば甚だ疑問なのですよねぇ。 ……貴女はどの様に御思いですか?」

 

彼女は漢が話している間、話の内容など欠片も聞きとどめていなかった。
彼女の中では、どのようにしてこの状況から逃れられるか。
その一点のみに思考が割かれていた。
その思考を知ってか知らずか、漢が唐突に問いかけてくる。


「……あぁ。 気が利かなくて、すいませんねぇ……、 
口を塞いでいては悲鳴は聞けないですね。
さぁ、喋れますので貴女の意見をお伺いしますよ、はい」

 

唐突に訪れたチャンス、彼女はその瞬間を逃すまいと心からの願いを声に乗せて叫ぶ。

 

「誰か!! 誰でもいいから助けてください。
お願いします!!
 誰かぁ……」

 

彼女の叫びなど無かったかの様に、辺りを再び静寂が包み込む。
暗闇の中でも視界の端に映る漢の顔がにちゃりとより一層、その笑みを深くする。

 

「ンフフフ、愚かですね。
こちらが何もせずに貴女にチャンスを与えると御思いか?
舐められたものですねぇ、はい。
ですが、対応としては花丸をあげたい位にだぁ~い正解でぇす。
今、貴女。これはチャンスだと思ったでしょう? 
希望を抱いたでしょう? 普通に考えてみてください。
こんな道の真ん中にこちらと貴女しか居なくて、
人ひとり通らずに車の音もしないなんてありえないと思いませんか?
こちらと貴女、出会って既に幾何かの時間が経過しているのですよ? ンフフフフ」

 

その言葉を聞き彼女の希望は粉々に打ち砕かれた。

 

「ここら辺の周囲に人払いをしているのです、はい。
誰も疑問すら抱かずこの道には入ってこれませんよ?
皆が皆遠回りでもして避けていくのです。貴女の全身全霊の叫びは虚空に消え、
助け等来ない。なぜ、それを最初に言わないのか、どうして最初に口を塞いだのか、
疑問でしょう? 簡単なことです。
何も知らない貴女は一瞬でも希望を抱いたでしょう?
助けを求めれば誰か来るかもと…… その希望が芽吹いた上でにじり潰す。
その瞬間のより深い絶望がとても輝かしいのです。
よくあるでしょう? パンドラの箱のお話。
あれは絶望の中に一欠片の希望が入っていたそうですね絶望をより濃くするためにぃ」

 

この時、彼女の思考は意識の底に沈み、
いっそ発狂でもした方が楽なのではと思ったが時が経てば経つほど、
その思考は冷静に自分の未来を鮮明に映し出していたという。そして、
同時に彼女の中の希望が消えていくのと同時に感じた事の無い感情に包まれる。

それを見ていた漢が小躍りでもするかのように喜びに満ちていた。


「ハァ……、 ハァ……、 良い、良いです。ンフンフフフフ……
あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!
素晴らしい、お手本の様な絶望の発露。
ぬるま湯で育った凡愚では味わう事等無い初めての感情ですね、良かったですね。
貴女は他の人間よりほんの少し優れた感情を知りその人生を終えられるのです。
これから、更なる絶望の数々を教えて差し上げましょうねぇ…… 
アフ、ンフ、ギュフフ……」

 

得体のしれないチカラにより体の自由が利かないままに、
漢の方へと引き寄せられている。

このまま何処に連れられてしまうのか、
何故自分なのか、どうして誰も来てくれないのか。

本当にこの世界に得体のしれない何かが存在しているのだろうか。
であれば、あの漢は本当に人間なのかさえ疑わしい。
幽霊や妖怪なんて信じてはいないし、
その辺の区別はできるだけの大人であるのは間違いない。しかし、
あの漢の言葉を聞いていたら解らなくなってくる。
もしかしたら本当にそんな得体のしれないものが居るのかもしれない。

そんなものが本当に居るとしたら、
そんなバケモノに捕まってしまったのなら自分は如何なってしまうのだろうか?

想像の及ばないが故の恐怖、次第に彼女の中で何かが芽生える。
その何かが徐々に彼女を蝕んでいく、云い得ぬ感情と絶望の片鱗が混ざり合う。

 

人、これを【混沌】と言う。

 

……助けて……

 

その言葉が誰に届くとも思えない程の小さな言葉。

混沌たる感情に彼女の自我も巻き込まれてゆく、
そんな中でも混沌より逃れるかの如く飛び散った感情の破片。

言わば粉々になった希望の粒の最後の一つが体から散っていったかの様な、
儚く虚空に消えるであろう『コトバ』

絶望に沈む彼女を漢が興奮気味に見入っている中、
彼女の自我はその絶望に囚われ混沌に飲まれようとしていた。

その刹那。

自然に出たそのコトバを優しく暖かな温もりが包み込んだ、
コトバが誰かに届くき優しく受け止められる感覚。

気のせいかもしれない。

あの漢がまた、何かしたのかもしれない。
信じると言うことに恐怖が纏わりつく、縋るべきではないと頭では解っている。
しかし、心が安寧を求めて勝手にその温もりを受け入れてしまいそうになる。

無様に抗えば漢をより喜ばせるのだろう。
意識の何処かでは抗いたいのに、疾うに抗う気力など残って無い。

僅かの葛藤も無かったかの様に安らぐ温もりが心に沁みわたる。
その温もりが漢のチカラの影響なのかと思えば、
より一層深く黒い混沌の渦に飲まれ、消えて無くなりたくなる。

希望を失いつつ、彼女は次第にその心が悲鳴を上げて砕けてしまいそうになる。

 

「ンップンギュッファ!!」

 

突如として、視界の端でグチャグチャに笑っていた漢が奇怪な呻きを漏らしながら
後方へ吹き飛んでいった。

混沌の中から困惑と驚愕の感情が鬩ぎ合い一時の停滞を生む、
ギリギリだった心に若干の余裕が生じる。

混沌の淵に足掛けていた彼女であったが、
優しく暖かな温もりが彼女の意識を強く引き寄せた。

1.人の趣味を馬鹿にするなら、初めから聞かないでよ。

今、僕の中で興味の中心にあるのは【呪物】だ。
呪いと言う見えない意志とはまた異なり、
何かしらの物体にその不可視な意思が宿った物。 

 太古から様々な曰く憑きの代物が存在しているのを知っているだろうか。
安易に思い浮かぶとすれば、大抵が武器の類だろうか。
呪いの剣、呪いの槍さらにマイナーなところだと呪いの暗器なんて物もあったりする。

 武器に関しては多くの人を殺めていたり、
特定の条件を長期に渡り繰り返していくことで年月を経て呪いの○○と称される。一部例外もあるけれど……

 

 日本人だと剣よりは、やはり刀が主になってくるのだろうけど、人によっては、
妖刀はまた別ベクトルの存在だと言われたり、呪物の派生(亜種)の様な物と
主張している人もいるみたいだから議論の分かれるところ。

 しかし、この世に存在する呪物がすべて武器や凶器だったりする訳じゃない。
呪われた鎧もよく聞くし、それこそ呪いの仮面や呪いの首枷なんて物で
「殺戮を繰り返した」なんて話は聞かない。

仮面で直接的に人を殺めるなんて骨が折れそうだ……

そういった物は大概が、人知の及ばない儀式の生贄と称して罪のない存在だったりに
拷問を繰り返し、その殆どが最後には死に絶える。

それが何年も何十年も何百年も続き、その度に特定の同じ仮面をつけて儀式をし、
生贄を同じ首枷につないでいれば、その生贄にされた者の呪詛はそういった周囲の物で最も意識しやすい物に蓄積されるのだろう。

「逃げ出したい」と強く思うが、それを阻む首枷が「憎い」と繋がってゆく。

死ぬ間際に視界に移った相手の顔が、
自分を嘲笑う様な醜い仮面だったらさぞ不快だろう。
何せ、恨むべく相手の素性が判らないのだ。
末代まで祟ることすらできなければ、心中蠢く不情はどこへ向ければ良いのか。

 

 もちろん呪物と言っても程度の差は区々の様だ。
持ち主に小規模の不運を齎す物。例えば、
順番待ちをしていたら毎回自分の前で売り切れになって手に入らなかったり。

やっと手に入れたものが毎度不良品ばかりだったり。
得てして、そう言ったショボい物は逆に稀なのではないかと思うほどに少なく、
それ自体が呪物であることに気付かないことが殆どか、
もしくは自分の持ってる物の何が呪物か解らないことが多い。

 

逆に酷いものでは所有者のみならず、その周囲を巻き込んだり。
所有者との繋がりがある全てを脅かす代物もある。
更には、所有者が死ぬまで手放すことができなかったり、
呪物にその精神を狂わされたりと不可解な事件事故が逸話という形や噂や伝承として残っているのである。

 

 僕が呪物に興味を持ったきっかけがある、

結構前から秘かに囁かれていた『噂』があった。

prologue1‐2【スピリチュアル系女子の気配は霧の様】

サークルメンバーと言っていいのかはわからないが、僕以外にもここに来る人がいる。
「遅いわ……待ちくたびれたの。でも、いいわ。今日も観察させてもらうから……」
噂をすれば影、唐突に声を掛けられて僕の蚤の心臓が跳ね上がる。
気を抜いていたら今頃、乙女の様な声をあげていただろう。
しかし、もう慣れたので声を出すことはない。

彼女が唯一僕以外に出入りしている存在。
気付いたらそこにいる神出鬼没のハーフ女子、
静かに僕の研究を観察だけしている謎多き少女。

僕の一つ上で四年の先輩。

リゼル・ミストーリア・ジャンファルク

僕より年上だが明らかに小さい、
それこそ公共施設では確実に声を掛けられるレベルに。

総体的に白っぽい印象で見方によっては怪しくも見える。
まぁ、僕としては邪魔さえしなければそれは構わないので好きにさせている状態だ。
いつも静かだしそれだけで十分だ。

この場所は、あらゆる情報を駆使して手に入れた活動拠点。
ほとんど僕の私物と父の遺品がを持ち込んだだけなんだけど。
ここは元から物置になっていてそれらの管理、状態維持を条件にここを借りている。

今のところ成果は無い。
だが、様々な考察文や論文紛いのモノを提出しているので立ち退きの心配はない。
……と思う。

教師諸君は大凡読んではいないだろうけどねぇ……

 

 代り映えしない毎日、周りの奴らはラノベや漫画を読んで、
「転生してぇ」とか「特殊な能力が欲しい」とか退屈な毎日に非日常をという刺激を
欲しているが、僕はそうは思わない。
なぜなら、どんな些細な出来事でも
非日常を知ってしまえば願っても戻れなくなるから。
非日常は知らない世界だから非日常なのだ、知ってしまえばそれは日常になる。
どこかで線を引いているからこそ楽しく考察できるし、様々な事例を知れるのだ。

 

 ふと、凝り固まった肩を解し、周りを見る。

「今日も今日とて、研究をしていたら遅くなってしまったな」
日も落ちて暗くなっている、いつの間にか先輩の姿もなくなっている。
僕は結構のめりこむと周りが見えなくなるタイプだが、それを抜きにしても物音一つ
立てずにその存在が消えるかの様に現れたり消えたりする先輩は最早、
シノビの者なのではないだろうか。

等と毎度似たようなことを考えながら片付けと帰宅準備をする。
「そろそろ帰るか」
忘れ物と戸締り確認をして僕は部室を出た。

prologue1‐1【非化学はオカルトではないよ】

「昨夜、未明。波森重工株式会社の代表取締役社長である、
波森 善哉氏(67歳)男性が遺体となった状態で発見されました」

「波森氏は以前から消息不明で捜索中でしたが、
今回も前回に引き続き特定の部位を損傷していたとのことでした。
そのため、今回の事件も同一犯の可能性があるとされています。」

「前回も含め、今回で5人目の被害者ですね。」

「警察の調査では未だ犯人の目星はついていないとのことです。
恐ろしいですね、早く見つかるといいですね。
では、続いてのニュースです。」

テレビで流れるニュース番組を聞き流し、彼女はふと意識を手元から離す。
テレビで流れるニュースキャスターと司会が「物騒ですね、夜道は気を付けましょう」
等と呑気に会話している。彼女は切れ長の目をスッと細めて呆れた風に呟いた。
「ふざけてるわ……」


———————————————————————————————————————

実卸大学三年 飛雫 梓 彼女はいつも落ち着いた雰囲気の育ちのよさそうな女性だ。
女子、と括るには実に大人びているが離せば気さくに明るく対応してくれる。
それが例え処世術の一つであっても。
勘違いなど烏滸がましい、僕は所詮モブだ。
彼女の世界では僕はその他大勢でしかない、今日もその姿を見るだけで満足だ。

僕の名前は 神門司 要 彼女と同じ実卸大に通う同学年の学生だ。
成績は中の下、運動は苦手じゃないけど好きでもない
趣味は理解してもらえないだろうけど、非化学研究。
答えの無いガセネタからまだ見ぬ真実を見つけ出すのがたまらなく好きだ。

嘗て、父が何処かの研究員をしていたせいか、
書斎にはそういった非化学の書物や骨董品がゴロゴロあった。

そのせいかもしれない。

そんな趣味にのめりこみすぎて、一年の頃に何人かで非化学研究愛好会を立ち上げたが、他の奴らは頭数合わせなので初日以来一度も来ていない。

まぁ、彼らはオカルトに興味があっただけで
非科学に興味はなかったみたいだからね。
仕方ないよ。